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 どれくらい眠ったのでしょう。何かしら音がして、はっと気がつきました。クルミはがたがたとふるえていました。山の夜は、いろんなけものがいます。遠くのほうでいまも、ギャーとなく声がします。ふるえながらクルミははなにしがみつきました。 すると今度は近くでがさがさがさという音がしました。落ち葉をかきわけて、何かがちかづいて来るようでした。クルミはこわくて目を開くことができません。がさがさという音はすぐそこまできて止りました。
 「おやおや、こんなところで一ばんすごすのは感心しないね。」
 小さいけれどはっきりときこえました。 するとまるでそれに答えるようにはなが
 「メエエエエエー」 と、小さな声でなきました。
  「じきに見つけにくるさ。もうさがすとこはここしかないからね。」
 さっきと違う声でした。
  「おまえさんがいるから、まあ心配はないと思うが、こんやはちっとひえこむからね。」
 「メエエエエ」 と、またはなが小さく答えました。
  「おまえさんの乳がでてたらよかったのにねえ。だいぶ前だがね、そういうことがあったよ。この子よりもう少し大きい男の子だったけどね、大雨で山がくずれて家も家族もみんなうもれてしまって、その子は二日間もやぎととりのこされたんだ。雨がやんでから反対側の谷を下っておりたんだが、やぎの乳のおかげで元気なもんだった。」  
 「そんな話をしてる場合じゃないよ、大丈夫、じきに家に帰れるだろうよ。」
 「メエエエエ」
近いのに地面に近いところから聞こえる話声がやむと、こんどはくるみのまわりでがさがさとおちばをひっかきまわすような音が、しばらくつづきました。 その音を聞きながら、クルミは、「わたし、もしかして死んじゃったんだ。死んじゃって、きっと今までと違う世界に来ちゃったんだ。」と、そんなふうに思いました。すると、不思議にこれまでのこわくてどうしようもなかった気持ちがきえてふるえが止まり、体まで温かくなってきたような気がするのでした。 そうしてクルミはまたふかいねむりにおちていきました。 

ふしぎなはなし
 クルミが林の入り口にちかいところで、やぎといっしょにいるのが見つかったのは、ま夜中でした。まだ遠くにいる人たちに、ヤギのなく声が聞こえたので、早く見つけることができたのでした。クルミはそのときヤギにくっついて丸くなり、足からこしのところまでいっぱいの落ち葉にうもれるようにして眠っていたのでした。
 クルミは病院に運ばれて、右足首をこっせつしていたことがわかりました。その夜は、氷がはるほどの冷え込みだったため、ヤギがいっしょでなければあるいは落ち葉をかけていなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれない・・と医者は言いました。 →
くるみのこやぎ7