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 さらに医者は、心ぼそいい思いをしたのだから、おとなたちは、クルミにあれこれ聞かないように、その夜のことを思い出させないように、といったのでした。
 でもクルミは、あの夜、林の中で聞いた話がわすれられませんでした。
  「そういうときには、ふしぎな夢を見るもんだよ。」父さんも母さんも笑って聞いていました。でも、
  「ずっと前に、大雨で、山がくずれた時に、ヤギと生き残った男の子がいた?」
  と言った時は、二人ともおどろいて、かおを見合わせました。
  「はなをつれてきたおじさんをおぼえているかい?あのおじさんのことだよ。しんさんは今も山向こうでたくさんヤギをかってるよ。」
 父さんはそうこたえたのです。
オスやぎがきた

 朝からはなが高い声でないています。大好きなくわの葉も少ししか食べません。しっぽをふりながら小屋の中をうろうろして、一日中ふるえる声でだれかをよんでいます。
 クルミが声をかけても遠くを見つめています。秋になってからこんなことが何回かありました。
 とうさんがしんさんのところへ電話をしました。
 クルミはまだギブスをはめたままの右足を、松葉づえをじょうずに使ってゆらしながら、大急ぎではなのところにいきました。
  「あしたの朝、おむこさんがくるよ」
 教えてやっても、はなはますます声を大きくして、夜になってからもないていました。
 オスやぎはやっと外が明るくなったころやってきました。大きくてはなのなん倍もあるようにみえました。立派なタテガミがあるのです。かたそうなふさふさした毛はひかってみえました。そして、ものすごいにおいがしました。
 しんさんははなを見て、それからクルミを見て
「いいやぎに育てたなあ」
 と言ってくれました。
 クルミは少し顔が赤くなって、自分のギブスでふくらんだ足元をみました。しんさんがどんな人か見たいのに、顔をあげることができませんでした。
 オスやぎは、はなのおしりをしらべてから、はなの顔や体のあちこちをフムフムとなめるようにようにしました。
  

くるみのこやぎ8