ところがこやぎはほんとうにやってきたのです。 クルミが小学生になったばかりの春のある日でした。ちいさなトラックの荷台にのって、こやぎがクルミのうちにやってきたのです。しかもあの雪のばんに、ばあちゃんがつれてきたこやぎにそっくりでした。 「やっぱりばあちゃんのやぎだよ!」 クルミのよろこぶのをみて、とうさんは 「これでクルミがまた元気になれるなあ。」 といいました。すると、かあさんは 「もう今日からは、いそがしくてしょんぼりなんかしていられないよ。」と言いました。 な屋のとなりの小さな物置が、あっというまにやぎ小屋になりました。かべになっていた戸をはずすと、ちゃんとさくになっていて、草を入れる草かまでついていたからです。 かあさんがおしぎりでワラをきざみ、クルミがそれを小屋の中いっぱいにしきつめました。こやぎはその上で後ろ足をそろえてヒョイヒョイとよことびしました。 な屋の入り口にいろんな道具がかかっています。その中に赤い首わがありました。ばあちゃんがさいごに飼っていたこやぎのものです。そのこやぎは、ばあちゃんがとつぜんたおれて入院したとき、よそにもらわれていきました。そのとき、かあさんのおなかにはクルミがいました。 「そりゃあめんこいやぎでな、ばあちゃんのあとをついて歩くときには前かけのむすんだひもを口にくわえてひっぱりよって、まああ、いたずらもんじゃった。」 クルミには、ばあちゃんの声が聞こえるようでした。 その赤い首輪をかあさんがクルミのこやぎにつけてくれました。真っ白なこやぎに赤い首輪はよくにあいました。耳が大きくてピンとたっています。しっぽは短くてピコピコと動きます。すらっとした足のさきにはすきとおったひずめがあります。鼻と口はピンク色でつながっていて、小さな白い歯がチラッと見えました。ひとみはぼうを横にしたような形です。そのぼうが明るいところだと細く暗いところでは太くなりました。クルミはそのぼうの目で見つめられると、子やぎをだきしめたくなるのでした。 いつのまにか、とうさんがやわらかそうなクローバーをかごいっぱいに運んできて、草かにいれてくれました。とうさんは 「名前決まったか?」とクルミに聞きました。 「はなだよ。ばあちゃんのやぎとおんなじだよ。」 ばあちゃんのやぎは、どれもいつもはなという名前でした。 はなは草かに顔をつっこんでクローバーを口にくわえ、しゃぶるようにかんでいました。 → |