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さよならの日
 「じゃあ夕方におねがいします。ああ、それはだいじょうぶ。そうですねえ、最後の日くらい目いっぱいのませてやりましょう。…」
 クルミはとおさんが電話ではなしている声で目がさめました。 おわかれの日、クルミははなとこやぎを近くの土手につれて行きました。はなは草を食べるのにいそがしそうでした。はなは、ものすごい食よくです。ワカもアオも、はなのまわりでかけ回って遊んでいたかと思うと、はなの乳を吸いにもどったり、草を食べたり、クルミには目もくれないで楽しそうでした。このごろは乳がぺちゃんこになってもまだほしがるこやぎを、はなが頭でつきとばすことがありました。はなにずつきをくらったこヤギが、今日はうれしそうにはねてにげました。
 夕方にちかづくと、はなだけを、少しはなれたところにつれていってつなぎました。 しんさんはいつもの小さなトラックで、となりにしんさんよりも色の黒い少年を、のせてやってきました。 少年は車からおりると、まっすぐにヤギ小屋にやってきました。そんなふうにするつもりはなかったのに、クルミはあわててワカとアオの前に手をひろげて立ちました。少年が目の前にきても、クルミは、かあさんがぬののはしきれをあんで作ってくれたワカとアオの首輪をしっかりとつかんではなしません。 とうさんとしんさんは向こうの方で話をしています。クルミは、さっきから前に立っている少年を見上げました。少年はだまったままクルミを見下ろしていました。その目はしんさんにとてもよくにていました。 そのとき、ワカがクルミのわきの下をさっとすりぬけてかけだそうとしました。少年の手が、それよりはやくワカをとらえました。
 「こいつのなまえは?」
 「ワカ」
クルミは小さな声でつぶやくようにこたえました。
 「そっちのは?」
 「アオ。」
 「ワカにアオだな。山に、なかまがたんといるぞ。」
 そういわれて、クルミはアオをつかまえていた手のちからがぬけてしまいました。少年はもうひとつの手でさっとアオのくびわをつかみました。アオとワカはトラックのうしろにつながれました。思いっきり高い大きな声で  「メエエエエエ」 となく声は、とおくにつないであるはなにもとどきました。
  「メエーーーエ」
  それにこたえるようにはなもなきました。 
くるみのこやぎ13