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  すると、とつぜん少年がかけ出しました。かきねもすいろもとびこえ、土手をかけのぼり、まっすぐにはなの声のする方に走っていきます。
  「かあさんに、あいさつしにいったな。」
 と、しんさんがひとりごとのように言いました。
 クルミはしんさんのかおを、そのときはじめてじっとみました。山でまいごになった夜、なにものかからきいたあの話の少年は、このおじさんだったんだと、今走っていった少年によくにたやさしそうなよこがおを見ていました。しんさんはそれに気づいて、くるみのほうをむきました。
  「クルミくんっていったな。」
クルミはくんなんてよばれたことははじめてでした。はずかしくて、へんじもできないでわざとはなのいる方を見ました。はなのなく声がやむとこやぎたちもしずかになりました。
 しばらくして少年は、行ったときと同じように、まるで馬がかけるようにはしって帰ってきました。
 「いつでもおじさんちにおいで、ヤギと、羊と、馬もいるよ。あの山の、ほらとんがった 青い屋根がちょっとみえるだろ、あそこからもうすこしはいったところだよ。こやぎはえ ーっと・・」
 しんさんはそういって、トラックのにだいにのった少年のほうをふり向きました。
 「こうた、いくつになった?」
 「こいつらで、16.あと3とう来る。」
 クルミはすぐに足し算をしました。(こやぎが16ぴき+3びきで19ひき。それに羊と馬・・)しんさんはクルミに
 「うん、今年は20とうくらいか、こいつが秋までめんどう見てるからね。」
 そういったとき、またはなのなく声が聞こえました。するとそれに答えるようにこやぎが大きな声でなきはじめました。
 「じゃあ!」
 しんさんは、とおさんに手をあげてさっさとトラックの運転席に乗り込みました。エンジンをかけ、今度はクルミに手を上げてにこっと笑いました。
 「メエエエエエエーメエエエエエ」
 車が動き出すとこやぎたちがさらに高い声でなきました。
 「メエエエーーメエエエーー」
 車の音にまけんとばかりのはなの声もとおくからきこえてきます。車はどんどん走っていきます。にだいの少年は両手でそれぞれのこヤギをかかえるようにしていました。
 「ワカー!アオー!」
 そうよんでクルミも走りだしました。おいかけて走ると、どうしようもなく涙があふれてきました。少年が立ち上がって手をふるすがたがにじんでだんだん小さくなっていきます。 「ワカ!アオ!」 くるみは走るのをやめてつぶやくようにいいました。とおく後からはなのなくこえが聞こえています。 
くるみのこやぎ14