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  けれどこやぎたちがはなのまねをして少しづつ草をかむようになると、くるみのしんぱいがすこしづつ大きくなりました。こやぎが草をしっかり食べるようになったら、やぎを連れてきたしんさんが引き取りに来ることになっていたからです。
 しんさんから電話があるとじきに、こやぎは朝と夕方だけはなの乳をもらい、草やふすまがゆをたべて一人前になる練習をはじめました。やがてひるまは、またはなを外につなぐようになりました。学校から帰るとクルミがこやぎを外に出してやります。こやぎははなのところにとんでいって乳を飲みます。だんだんワカもアオもたくさん草を食べるようになりました。はなの乳はコップにいれたらもう5杯も6杯もしぼれるようになりました。その乳で、かあさんはヨーグルトを作ってくれました。のめるくらいのやわらかさのヨーグルトを、ストローで飲むのがクルミは好きでした。でも、なんといっても、ミルクプリンがとびきりおいしいと思いました。はな乳のたんとはいったホットケーキやドーナツはしっとりとしていて、かあさんがはな乳のクリームだけをとっておいたのをホイップして作った生クリームをのせたらもうさいこうでした。
 おやつだけではありません。その日クリームシチューを作るときに、かあさんははな乳をどっどっどっとおなべに入れました。とおさんはそのシチューを食べているときに
 「こういうの、まろやかって言うんだなあ、うまいなあクルミ。あしたしんさんがこやぎをつれに来るとまいにち食べられるようになるぞ。」といいました。するとかあさんが、
 「そうだね、きっと三人じゃあ飲みきれないから、バターやチーズを作ろうと思ってるんだよ。チーズはすこし勉強しないとね。」
といいました。クルミは口をむっと結びました。そんなクルミのかおを見ながら
 「ばあさんは、酢で固めたとうふが好きだったな。」
と、とうさんが言うと、かあさんが
 「あれはカッテージチーズって言うのよ。私も好きだわ、おしょうゆとよく合うのよね。」
といい、そのあとも、二人でやぎの乳のごちそうのことをあれこれと話しつづけました。クルミにはわかっていました。しんさんは、明日の日曜日ではなく、来週の日曜日に来るはずだったのです。とおさんとかあさんもわかっていました。バターやチーズよりクルミはこやぎのほうがいいにきまっています。
 「こうたくんが来週はつごうがわるいそうなんだ。こやぎの世話はあのこが全部見てるんだそうだよ。いまどきたいしたもんさ。」
 とうさんがくるみの頭をなでながら言いました。くるみにはわかっていました。理由なんかいいのです。どうせ、行くことになっていたのですから。でも明日というのは、クルミにはとつぜんで、すこしだけ早すぎたのです。クルミがスプーンをほおりだして、はなとこやぎたちのところにとんでいっても、とうさんもかあさんも後をおいませんでした。
 すこしたちました。暗いヤギ小屋で、はなとワカとアオとクルミとが、ひとつになって眠っていました。いえ、ほんとうは、クルミは眠ってはいませんでした。泣きたいだけ泣いて目をつむっていたのです。とおさんが、そっとクルミをだきあげてつれて行きました。  
くるみのこやぎ12